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所得保障

(1)任意加入に起因する無年金障害者

○学生無年金障害者訴訟・最高裁判所第2小法廷判決平成19.9.28最高裁判所民事判例集61巻6号2345頁(上告棄却)

1985年改正で学生が国民年金強制加入になる以前の大学在学中に障害を負ったX(上告人)は、障害基礎年金を申請したが、任意加入していないため年金を支給しないとする決定に対し訴訟を提起した。1審は請求認容、2審はそれを取り消したが、本判決では、国民年金制度において具体的にどのような立法措置を講じるかの選択決定は立法府の広い裁量にゆだねられており、著しく合理性を欠き明らかに裁量の逸脱、濫用とみざるをえないような場合を除き、裁判所が審査判断するのに適さない事柄であるとしたうえで、本件において立法府が改正前において学生について国民年金の強制加入被保険者にしなかったことは著しく合理性を欠くとは言えないとした。

(2)遺族補償年金における男女平等

○地方公務員災害補償基金大阪府支部長(市立中学校教諭)事件・大阪高等裁判所判決平成27.6.19判例時報2280号21頁(原判決取消、請求棄却)

地方公務員災害補償法に基づく遺族補償年金を請求した夫X(被控訴人)は、年齢要件に該当しないとして請求を棄却された決定に対し訴訟を提起した。配偶者のうち妻には年齢要件を設けず、夫には年齢要件を設けていることについて、1審は不支給決定を取り消したが、本判決では、どのような立法措置を講じるかの選択決定は立法府の広い裁量にゆだねられており、著しく合理性を欠き明らかに裁量の逸脱、濫用とみざるをえないような場合を除き、裁判所が審査判断するのに適さない事柄であるとしたうえで、夫が死亡した場合妻が独力で生計を維持することができなくなる可能性は高いため、本件区別は合理性を欠くということはできないとした。

(3)厚生年金基金からの脱退

○長野県建設業厚生年金基金事件・長野地方裁判所判決平成24.8.24判例時報2167号62頁(請求認容)

多額の使途不明金や積立不足が明らかになった厚生年金基金からの脱退をX事業所(原告)が申し出たのに対し代議員会で脱退を認めなかったことについて、脱退を認めるよう訴訟を提起した。本判決では、基金の存続を図るために設立事業所の脱退に一定の制限をすること自体には合理性があるが、「やむをえない事由」がある場合には基金からの任意脱退を制限することは許されないとしたうえで、本件の場合は「やむをえない事由」があり脱退を認めるべきであるとした。

(4)生活保護における老齢加算廃止

○生活保護老齢加算廃止訴訟・最高裁判所第3小法廷判決平成24.2.28最高裁判所民事判例集66巻3号1240頁(上告棄却)
→「全般」参照

(5)保護の補足性と稼働能力の活用

新宿ホームレス訴訟・東京高等裁判所判決平成24.7.18賃金と社会保障1570号42頁(控訴棄却/確定)

ホームレスであったX(被控訴人)は福祉事務所に生活保護の開始申請をしたが、稼得能力を十分に活用しているとは判断できないとして申請が却下されたことを不服として提訴した。1審は却下決定を取り消したが、本判決では、稼働能力を有しているのに現にこれが活用されていない場合であっても、それを活用する意思を有しているときには、具体的な環境の下においてその意思のみに基づいて直ちにその稼働能力を活用する就労の場を得ることができると認められない限り、稼働能力の活用要件を充足しているということができるとしたうえで、本件においては稼働能力を活用する意思を有していたものであって、稼働能力の活用要件を充足するため生活保護の受給を認めるべきであるとした。

(6)保護の補足性と自動車保有

○枚方生活保護自動車保有訴訟・大阪地方裁判所判決平成25.4.19判例時報2226号3頁(請求認容)

身体障害者であるX(原告)は、電車・バス利用が著しく困難なため処分価値のない自動車を保有・使用していたが、それを理由に生活保護の廃止処分を受けたことを不服として提訴した。本判決では、生活保護法において活用することを要件としている資産とは、基本的には処分価値を有するものを意味するが、その保有により経済的支出を要するものもあるため、処分価値がない資産であるからといって当然の保有を認められるものでもないとしつつ、障害の状況によっては自動車を保有する必要性が高く、維持費等の経済的支出が社会通念上是認できる場合もあり得るとしたうえで、本件においては自動車による以外に通院等を行うことは極めて困難であったというべきとして請求を認めた。

(7)書面による指導指示

○京都市「増収指示」事件(生活保護京都訴訟)・最高裁判所第1小法廷判決平成26.10.23判例時報2245号10頁(破棄差戻)

X(上告人)は生活保護開始の際に手描き友禅の事業用資産について自動車の保有を認められた。福祉事務所は書面で増収の指示をし、指示の理由として「収入増加に貢献すると認められたため自動車の保有を容認していたが目的が達成されていないため」としていたが、期限後指示の不履行を理由に保護を廃止したのに対し、不服として提訴した。1審は請求を認容し、2審はそれを取り消したが、本判決は、指導または指示の内容は書面に記載されていなければならないが、本件では指示の内容には増収すべき旨しか記載されておらず、自動車を処分すべきことも含まれているとは解し得ないとし、指示内容が増収指示のみだったことを前提に実現不可能だったかどうか審理を尽くすべきとして、原審に差し戻した。

(8)永住外国人への生活保護法適用

○大分外国人生活保護訴訟・最高裁判所第2小法廷判決平成26.7.18賃金と社会保障1622号30頁(破棄自判)

X(被上告人)は永住者の在留資格を有する外国人であり、生活保護の申請をしたが却下されたことを不服として提訴した。1審は請求を棄却、2審は却下処分を取り消したが、本判決は、現行の生活保護法は適用対象を「国民」と定めており、外国人に準用する旨の法令も存在しないとして、本件却下処分は適法であるとした。

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