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2018.11.06視察報告(海外)

アメリカ視察(名城大学 教授 柳澤武 2018)

2018年 アメリカ視察報告書(名城大学 教授 柳澤武)

1.視察日
2018年3月8日(木)から14日(水)にかけて[移動日を含む]

2.視察先
シラキュース大学、ステットソン大学、CCRC、高齢者センター、ホスピスほか

3.視察項目・内容
高齢者雇用をテーマとする学術交流、各施設でのヒアリングや情報交換

4.主要な視察場所とコメント・写真
(1) ミーティング(シラキュース大学ロースクール) image001

同大学と近郊に滞在中は、高齢者法が専門のNina A. Kohn教授に大変お世話になった。最初のミーティングでは、高齢者法クリニックに関与する教授、学生、検認後見裁判所の裁判官(New York Surrogate’s Court)、弁護士ら10名が参加した。同クリニックは、ロースクール内の事務所であり、参加することで学生には単位認定がなされる。また、「高齢者法」と「医療法」といった、分野を横断した連携もなされている。ミーティングでは、住宅問題、消費者問題、金銭問題など様々なケースを紹介していただいた。

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(2) Loretto senior care facilities(CCRC)視察
シラキュース大学に近いContinuing Care Retirement Community(CCRC)であり、①Independent (senior) Living[独立した(高齢者向け)住居]、②Assisted Living[介護付き住居]、③Nursing Home[介護施設]などが連携している。二時間半にわたり施設内を視察した。公会堂などの大型設備が充実している。

被用者の採用に際しては、Human Resource Departmentが、採用時の犯罪歴チェック、指紋照合、薬物テストを行っている。福利厚生については、被用者専用の診療所あり、多くの研修プログラムや教練が用意されていた。また、CCRC業界では珍しく労働組合が組織化されており(今回の調査では唯一)、Service Employees International Union(SEIU)傘下であった。

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(3) Aging Studies Institute(シラキュース大学)
加齢研究所(1972年に老年学センターとして設立、2011年に改組)の関係者ら6名で、昼食ミーティングを行った。Merrill Silverstein (社会学者)との質疑では、「Q: 日本の法律(労働安全衛生法・裁判例など)では、(中)高年齢者に加重した安全配慮義務を課している。年齢ごとに、安全基準は変えるべきか?」、「A: 大変難しい質問だ。高齢者は体力の衰えにより、事故が起こる確率は増えるかもしれない。他方で、ある最近の統計では、高齢労働者の事故は少ないとの結果も出ている。加齢した労働者は経験豊かで、注意深いので、事故を避けられる可能性もある。そのような実証研究は、老年社会学の守備範囲だ。年齢差別の問題にも関わってくる。年齢ごとに異なる配慮(accommodation)を行うと、年齢差別の問題が生じる。そこで、Ergonomics(人間工学)というコンセプトの重視など、全年齢が働きやすい環境が重要である」との示唆を得た。

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その後、シラキュース大学ロースクールの施設見学を行い、高齢者法クリニックのMary Helen McNeal教授と、より詳細な意見交換を行った。

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(4) 高齢者法研究拠点(ステットソン大学ロースクール) image015

高齢者法の研究拠点であり、スローガンはAccess and Justice for All。今回のインタヴューに応じてくださったRebecca C. Morgan教授やRoberta K. Flowers教授のような、高齢者法を専門とする研究者が所属している。修士課程を擁する教育機関でもあり、実務家や外国人の受け入れにも積極的で、Online Coursesや夏の短期プログラムも用意されている。ここでは、こちらから日本の高齢者雇用に関わる法制度を説明するとともに、高齢者法の概念についての意見交換や、高齢者法専門の弁護士を認定するシステムの話を伺うなど、高齢者法概念の確立へ向けた示唆を得た。

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(5) ステットソン大学ロースクール模擬法廷
全米で初めての高齢者に優しい模擬法廷として2005年に設置された。フラットな構造とスロープ、自動ドア、視覚障害者ガイド、支援のための集中管理卓、Gender freeトイレなど、現在でも先駆的な機器を備えている。

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(6) The Fountains at Boca Ciega Bay (CCRC)
施設の特徴としては、全てレンタルの高層型CCRCであり、海岸沿いに立地しており、海辺を散歩したりする住居者の姿がみられた。食事には力を入れており、レストランのコース料理のように何品かを選択できるようにし、綺麗なテーブルセットが用意されている。施設内の売店では、スペースの制約があるため、バーチャルストアも併用し、希望の品を短期間で届けることができる。映画館などの娯楽施設も充実。住居には、安全確認のボタンがあり[同様のものが、他の施設にもあった] 、定刻に押されなかった場合には、スタッフが様子を見に来ることになっている。同機の紐の部分を引くと、無条件でスタッフが駆けつける。

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(7) Freedom Square(CCRC)
住居部は中層型マンションとなっているCCRCで、温泉などの大型施設を擁するほか、中心部に位置する厚生施設は古風な「町」のようなエリアで形成されている。やはり食事には力を入れており、居住者用に豪華な食堂があるほか、来訪者などが食事できる施設も充実している。このレストランのシェフは、絵画(似顔絵)の創作活動を行っており、このような活動をCCRCの経営者が奨励するなど、各労働者の創造性を生かせるような人事労務管理にも注目したい。

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(8) Westminster Shores(CCRC)
これまでの施設のなかで、最も価格帯が高く、戸建て型とマンション型の両方があるCCRCである。両者間を移動することも可能となっている。広大な敷地で活動できることを特徴としており、60歳過ぎの早期入居をターゲットにしている。戸建ての住居は、安全確認の機器(前掲)があり、フラットな作りとなっているほか、通常の住居と変わらない。利用者拡大に伴い、高層型マンションも新たに建設中である。

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(9) 高齢者法専門 弁護士事務所
弁護士とケアマネジャーとの協同に関わる課題について、Robinson弁護士とChamberlain弁護士にインタヴューを行った。1992年当時は弁護士事務所でケアマネジャーを雇っていたが、1998年以降は、分離しつつ協同して活動している。その背景として、第一に、弁護士には利害が対立する双方の代理(例:親と子)ができないという課題があり、第二に、弁護士の直接勧誘禁止ルール(Anti-solicitation rules)への抵触にも留意すべきとのことであった。さらに、両職務の役割分担や守秘義務などの問題も重要である。また、高齢者法のなかでも専門は細分化されており、これまで雇用における年齢差別禁止法(ADEA)に関わる相談は受けたことはないが、そのような相談が来れば雇用差別専門の弁護士に依頼するとのことであった。

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(10) アメリカ退職者協会(AARP)設立のSCSEP(サンシャイン・センター2階)
Senior Community Service Employment Programによる公的施設であり、これまでみた民間CCRCとは異なる利用者層であった。同本プログラムはアメリカ労働省によって推進されている。調査地の場合、AARPの基金で設立された政府によるプログラム下にあるNPO[=AARP本体とは異なるが傘下]、55歳以上の失業者に対して職業訓練や就労の機会などを提供する。貧困線の125%を超える収入のある家庭の求職者は除外され、対象者内でも一定の優先順位がある。担当のEmployment Specialist(Clementine Wilson氏)の話によれば、長期間失業状態にあった求職者に対して新しい技術を身につけるため無料のワークショップ(履歴書の書き方、PC操作、SNS活用等)を開催し、OJTによる職業訓練も紹介するとのこと。紹介できる職種は多様であり、フル/パートタイムいずれもあり、週20時間の就労形態が平均値である。上限年齢はないため、なかには90歳以上が就職した事例もある。Wilson氏が担当した限りでは70%が就職に成功しているとのことであった。

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(11) SUNCOAST Hospice(ホスピス)
最初に訪問した場所は、スタッフ(労働者)を派遣するための事務所(ホスピスとしての場所ではない)にもかかわらず、風光明媚な場所に位置しており、スタッフのメンタルヘルスにも好影響を与えている。この業界にしては、労働者の離職率は低い。ホスピスの現場スタッフは、介護士、社会福祉士、看護師、薬剤師、医師といった多様な業種から構成されているため、業種の垣根を越えた(interdisciplinary)集団的なアプローチが重要となり、チーム・ミーティングは綿密かつ頻繁に行うとのことである。

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続いて、ホスピス施設(Care Center)を訪問した。働き方で注目すべき点は、PCの入力作業を、事務室のような閉鎖された場所ではなく、廊下と部屋の間にある空間で行っていたことである。かかる配置により、入所者への目配りが可能になるとのこと。一部の部屋は、手術室のように陽圧管理が可能で(クリーンルーム仕様)、感染症に罹患した入所者にも対応できる。ボランティア労働者の参画も欠かせず、専用のスペースにて対応している。亡くなられた方の部屋に、蝶のリボンを掲げ、敬意を示す風習が印象的であった。

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