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2017.04.03視察報告(国内)

熊本視察から得られた宝(横浜国立大学 博士課程後期 余乾生)

今回の熊本視察では、人生で初めて被災地を訪問し、被災の状況を生で見ることができた。そして、病院・特養等いろいろな施設を視察し、普段入手できない情報を数多く得られた。視察対象の一つ一つに対して、異なる感銘を受け、異なる経験ができたと言っても過言ではない。このような充実した視察ができたことに対して、先生方に感謝を申し上げたい。以下、視察対象に沿って、私が得た宝について述べる。

1.阿蘇温泉病院・ひろやす荘・龍正園
阿蘇温泉病院は、病院と介護老人保健施設・有料老人ホームを経営し、デイケア(通所リハビリ)・デイサービス(通所介護)・訪問介護・緩和ケア(ターミナルケア)等を総合的に提供しているところである。当病院は地下の天然温泉を掘りだしており、利用者と職員たちが毎日利用している。当病院では、温泉療法は行われていないが、温泉の設備等は一般的な温泉施設と異なり、高齢者や行動の不自由な人々に向けて、手すりを付け、入浴補助員を配置し、安全な入浴作法をマニュアル化し、それを遵守する等、いろいろな工夫がなされている。このような工夫に感銘を受ける一方、中国人留学生の私にとっては、日本では温泉文化が当たり前のようにあるからこそ、温泉病院が広く受け入れられると感じた。中国には温泉自体が極めて少ないため、このような形態は成り立たないであろうと思う。また、ここは指定避難所ではないが、被災時に、避難してきた人々を収容した。病院は、高齢者や障がい者向けの設備を整えているため、一般的な避難所よりも高齢者や障がい者に適していることが理解できた。

ひろやす荘と龍正園は特別養護老人ホーム(特養)であり、ハードウェア・職員たちの対応等から見ると、両方ともレベルが高い特養であると感じた。前者は上記阿蘇温泉病院と同様に、被災時に臨時避難所として、避難する人々を収容した。設備の面からみると、学校等の避難所より優れていると感じた。(この病院と施設が指定避難所にされていないことに疑問を感じた。)龍正園はU-visionというNPOの基準に合格した認定施設である。見学を通して、施設がいろいろと工夫している点を見ることができた。例えば、認知症の方々のために、玄関とメイン通路の間に、前室(認知症の方は誰かにみられると心理的なプレッシャーが生じ、外出を控えがちになる。前室があれば、通路から直接見られないことによって、より簡単に部屋から出られる。)を設けること、また、個室の前に物を置く場所と名札(認知症の方は自分の馴染んだものと名前で、より容易に自分の部屋を認識できるように)を用意したことが挙げられる。素晴らしい対応だと考えるため、中国にも紹介したい。また、ひろやす荘はU-visionの認定を受けていないが、政府からのチェックを受けており、サービス・設備のレベルも高いと感じた。ここでは、政府の監督も評価すべきであろう。

2.阿蘇神社・熊本城・益城町被災地
阿蘇神社・熊本城は熊本の有名な観光地だが、地震によって大きな被害を受けた。阿蘇神社の屋根が地面に落ち、熊本城の壁が丸ごと倒れた。歴史のあるところが地震で壊れ、心が痛むばかりである。そして、益城町は熊本地震の揺れが最も激しかったところの一つである。震度7の大地震の破壊力に驚いた。部屋が完全に微塵切りのような形で倒れたところもあり、地面が1メートル以上隆起したところもある。

これまでは、映像でしか被災地の状況を見たことがなかった。2008年5月12日の中国の四川省の大地震もテレビの映像でしかわからない。このたびは、人生で初めての被災地視察で、映像と実際目で見ることにはやはり差があることに気づいた。また、今回の視察では、被災者の仮設住宅も訪問した。仮設とはいえ、頑丈な素材を使用しており、玄関の前に階段があり、その脇に車椅子の通れるスロープも作ってあることに感動した。災害が頻繁な日本は、災害に負けず、地道な方法で、手を抜かずに、国と国民の力を併せて、工夫している。それが現在の中国に足りないのではないかと感じた。

〖横浜国立大学大学院国際社会科学府・博士課程後期 余乾生〗

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