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2017.02.20視察報告(国内)

富岡3.11を語る会視察報告(横浜国立大学 経済学部 千代香菜子)

被災地視察初日、私たちは桜風舎で富岡町3.11を語る会の語り人である青木淑子さんと遠藤友子さんからお話を伺いました。20134月に富岡町社会福祉協議会おだがいさまセンターの事業として「震災の語り人事業」が設立され、20154月に富岡町3.11を語る会として独立し、19名の語り人で活動されています。20139月から20153月までで1253037名に口演されています。

青木さんからは震災前後の富岡町と現状について伺いました。富岡町は夜の森の桜が有名で、震災前は若者の働く先として原子力発電所があるため、高齢化率が21.6%とそれほど高くない町でした。東日本大震災により富岡町では24名が直接の被害で亡くなりました。一方で生活の変化によるストレスなどによる震災関連死が20152月発表時点で273人おり、地震や津波の自然災害とは別の災害であり、ありえない事故による人災であるとおっしゃっていました。

震災後の避難命令では誰もがすぐに帰れると考え、ほとんど着の身着のままで避難先の川内村へ向かい、1本だけ残った道路は大渋滞だったそうです。当時情報がコントロールされていた象徴として、住民たちが普段着なのに対し警官がガスマスク姿で交通整理をしている写真を見せていただいたのが印象的でした。また、断水で水をもらうために水道局に行列ができ、1人1袋のため5歳の子供も長時間並んでいたといい、放射線の情報があれば子供を外で並ばせなかったのにという声もあったといいます。

316日には避難区域が広がったことを受け、郡山市のビッグパレットふくしまの避難所に移動がありました。避難した人たちであふれかえり、混乱もあったそうです。プライバシーもない環境で、避難者のケアが必要だという声が避難者自身からあがり、避難支援センター、通称「おだがいさまセンター」が立ち上がったそうです。事業のひとつとして、女性が着替えなどで利用できる女性専用サロンを設置したことで、そこでの交流から自治が生まれたとおっしゃっていました。

現在の問題として、境界ひとつ隔てて帰還困難区域とそうでない区域があり、そこで賠償などに違いが出ることに町民感情として納得できないものがあることと、賠償のことなどで周囲から誤解を受けたり、家族がバラバラに暮らさざるを得なくなったりするなど、お金で完全に補償できるものではないことをおっしゃっていました。また今の小学生は故郷を知らないで育っており、これから故郷への気持ちをどう育てていくのか、若者はどうなっていくのかということが課題だともおっしゃっていました。

遠藤さんには実際に避難を行っての心境などについてお話いただきました。遠藤さんは専業農家で、米や牛を育てていました。避難指示が出たときはすぐに帰れると思っていたので、牛もそのまま置いていったそうです。最初の避難先である川内村も避難指示が出て、16日にビッグパレットふくしまに避難し、3か月そこで過ごしたそうです。置いていった牛のことが心配になり、4月に様子を見に行くと親牛二頭が亡くなっていました。17日間エサをあげることができませんでした。遠藤さんは牛に謝り、重機で裏山に埋葬したそうです。残った牛は牛舎から出しましたが、結局殺処分されることが決まりました。牛を失った悲しみは大きく、地震や津波だけだったらこうはならなかったのにと遠藤さんは言います。また家も長く人がいなかったことが原因で、ネズミがあちこちかじりフンをしていってしまい、家財道具の多くを処分せねばならず、残ったのは家や仏壇、位牌などで、むなしさだけが残ったそうです。いろいろと失ったものがある一方で、人とのつながりや人のあたたかさを得ることができたとおっしゃっていました。

お話を伺う中で、震災から4年半経過した現在でも、まだ解決すべき問題が沢山あると感じることが多くありました。いままでと違う知らない町にいるため、道路に不慣れで車を運転することが難しく、そうかと言って車がなければ人に会いに行くのにも不便で、人のつながりが分断されている状況や、仮設住宅の高齢者の割合が高く、今後どう面倒を見ていくかなどの問題があります。町を作っていく段階で考えなければいけない問題だと感じました。以前はニュースなどを見ていて復興が着実に進んでいる印象のほうが強くありましたが、実際に訪れて直接お話を伺って、形だけできていてもそこで暮らす人たちに支持されなければ意味がないと気づきました。これからどういった方向に進んでいくべきなのか、考えていかなければならないと思いました。

最後になりましたが、貴重なお話をしてくださった青木淑子さんと遠藤友子さんに感謝申し上げます。ありがとうございました。

〖 横浜国立大学経済学部 千代香菜子 〗

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