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2016.05.09会員コラム

「成年後見」って、どんな制度?(弁護士 川島道世)

日常生活であまり聞きなれない「成年後見制度」。弁護士に相談に来られるきっかけとして多いのは、例えば、父が死亡し母が認知症で、父の相続手続のために銀行へ行ったところ、母に後見人を付けないと手続できないと言われた場合などです。はじめに、このような経緯で相談に来られた方に、誤解が多い点を挙げてみます。

①体が不自由でも、発語できなくても、判断能力がある方は対象外です。「精神上の障害」により判断能力に問題がある方のための制度で、若年でも成人であれば対象です。

②「後見人になればご本人の財産を自由に動かせる」制度ではありません。ご本人の財産をご本人の生活のためにだけ使い、それ以外は安全に管理する制度です。「おばあちゃんが元気な頃は、孫をとてもかわいがっていた」からといって、孫の入学費用や結婚費用を支出することは、残念ながら原則不可です。株式投資などリスクのある運用を新たに始めることも原則不可。相続税対策の事業や借金なども、まず認められません。一定額以上の預金現金があれば(東京家裁はホームページに「500万円以上」としています。)裁判所から「成年後見支援信託制度」で預金現金の大部分を信託にすることを勧められる場合もあります。

③申立書に「後見人候補者」欄がありますが、ここに申立人(ご本人の親族など)を記入してもその方が選ばれるとは限らず、申立手続を委任した弁護士等を書いても、その弁護士が選ばれるとも限りません。裁判所が全く無関係の弁護士等を選任することは、よくあります。いったん申立を行うと、取下げも原則不可です。

④親族の方が後見人の場合、後見監督人という親族後見人監督のための弁護士等が選任されて、監督人に報酬を支払う場合があります。

こうしてみると、後見人目線からは「ないないづくしの使いにくい制度」と感じられるかもしれません。ここで、「もし、将来自分の判断能力に問題が生じたら。」と仮定してみたらいかがでしょうか。ご本人のための支出は、財産額にふさわしい今までどおりの支出であれば、一般人には贅沢な水準であっても出し惜しみする必要はありませんし、それ以外を安全に管理する制度ですから、適切に運用される限り、安心な制度と感じられるのではないでしょうか。特に、ご高齢の方にとっての財産は、長年にわたりがんばって働いてこられた成果ですから、安全第一の管理には、十分な理由があると、私は思います。

〖 弁護士 川島 通世 〗

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