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住まい

(1)高齢者住宅での事故

○損害賠償請求控訴事件・福岡高等裁判所判決平成28.11.24LEX/DB 25544934(原判決変更(一部認容))
高齢者専用賃貸住宅(介護保険法8条11項所定の特定施設)を開設・運営している株式会社(Y)と入居者(Z)との間の特定施設入居者生活介護、介護予防特定施設入居者生活介護契約に基づく健康状態確認義務および医療機関への転送義務の存否

ア 医療機関への搬送義務について
「Yは、本件介護サービス契約に基づき、入居者Zに対し、Zの心身に異常が生じ医療措置が必要なった場合は適切な医療措置を受けられるようにすべき義務があり、特に早急に医療機関において診療を受けなければ生命身体に重大な悪影響が生ずる可能性があり、看護職員であればそれを認識できる場合には、速やかにZを適切な医療機関に搬送すべき義務を負うと解すべきである。」
イ 健康状態確認義務
「本件介護サービス契約に係る契約書(重要事項説明書を含む。)において、Yが上記義務を負う旨の明文規定は存在せず、同契約の解釈上、被控訴人が上記のような具体的な義務を負うと解するのも困難である。」

○損害賠償請求事件・大阪地方裁判所判決平成27.9.17判例時報2293号95頁(一部認容、一部棄却)
賃貸住宅を運営しそこで訪問介護サービスを提供している業者(Y)と入居者(f)との間で締結された賃貸住宅と訪問介護サービスに関する契約における、サービス時間外の誤嚥に関する安全配慮義務違反の成否

「fとYとの契約は、訪問介護契約であって・・・、夕食時間帯はサービス提供の時間帯ではなく、Xらが主張するような債務は、認められない。Yが広告に24時間サービスをうたっていたとしても、それが当然に入居者の一人であるfとYの契約の内容になっていたとは認められない。・・・Yからみて誤嚥の差し迫った危険があったとはいえず、本件賃貸借契約も特殊なものとは認められないから、契約の範囲にかかわらずfの夕食時に誤嚥を防止する法的義務があったとまではいえない。」

○損害賠償請求控訴、同附帯控訴事件・大阪高等裁判所判決平成20.7.9判例時報2025号27頁(控訴および附帯控訴いずれも棄却)
高齢者向け優良賃貸住宅における緊急対応サービス契約の債務不履行の成否

「本件住宅は、高齢者の居住の安定確保に関する法律に基づいて、A市長の認可を得た高齢者向け優良賃貸住宅であって、高齢者の安全安心な生活のために本件緊急対応サービス契約が締結されていることからして、その緊急対応サービスは本件住宅の賃貸借契約において必要不可欠な重要性を有しているといわなければならない。そうすると、本件緊急対応サービス契約上、被控訴人は、各緊急時の具体的状況のもとで、少なくとも、契約上予定された範囲では、最も安全かつ迅速な方法でその義務を履行する責任を負っているというべきである。」
「本件緊急対応サービス契約3条で、生命の危険がある場合の立入権をFに認め、これを受けて、本件住宅の管理者として玄関の合鍵を保管しているYに対し、危急時の対応の「敏速かつ円滑な履行のため」、その鍵をYが本件緊急対応サービスの履行者(F)に貸し出すことを亡Bに承諾させていることからすれば、YないしFが亡Bの危急時において、あらかじめ保管している合鍵を用いて最も迅速で円滑な対応をすることが契約上当然期待されているといえるから、適切な合鍵を適正に保管すること自体契約上の義務の内容となっていると解するのが相当である。」

(2)高齢者の住まいと契約

○入居一時金償却条項使用差止等請求控訴事件・福岡高等裁判所判決平成27.7.28金融・商事判例1477号45頁(控訴棄却)
シニアマンションと称して運営する高齢者専用住宅の入居契約を締結するに際し、不特定多数の消費者との間で、入居一時金の一部を非返還対象とする旨の条項および入居一時金の償却期間を一律に180か月(15年)とする旨の条項を含む契約の申込みまたはその承諾の意思表示を現に行いまたは行うおそれがあるとして、適格消費者団体であるXが消費者契約法12条3項に基づき、当該高齢者専用住宅の運営等を業とする株式会社であるYに対し、当該行為の差止め等を求めた事案

「差止めの対象となる事業者の行為としては、拡散する蓋然性を有することが必要と考えられることから、同条は、差止めの要件として、当該行為が不特定かつ多数の消費者に対して現に行われている場合又は行われるおそれのある場合であることを必要としているのであり、同条に規定する「現に行い又は行うおそれがあるとき」に当たるというためには、当該事業者により現実に差止請求の対象となる行為がなされていることまでは必要ではないものの、当該事業者により当該行為がされる蓋然性が客観的に存在していることを要するものと解される」ところ、「現在、Yが、本件施設の入居契約を締結するに際し、不特定多数の消費者との間で、入居一時金の一部を非返還対象とする旨の条項又は入居一時金の償却期間を一律に180か月(15年)とする旨の条項を含む契約の申込み又はその承諾の意思表示をする蓋然性が客観的に存在しているとはいえず、Yが当該意思表示を「現に行い又は行うおそれがある」とは認められないというべきである。」

○顛末報告等請求事件・横浜地方裁判所判決平成26.12.25判例時報2271号94頁(一部認容、一部棄却)
介護付き有料老人ホームの入居契約と民法645条・656条に基づく顛末報告

「本件契約の内容は、・・・Yは亡dから入居金及び介護費の支払を受け、他方、亡dはYから本件施設の居室等を利用し、食事の提供、清掃、介護等の各種サービスを享受する権利を取得することを内容とするから、その法的性質は、主として賃貸借契約及び準委任契約であると解され、これらの性質を併せ持つ複合的な一個の無名契約であると解される。」
「委任者は、委任事務の処理状況を正確に把握するとともに、受任者の事務処理の適切さについて判断する必要があり、とりわけ亡dの生前に行われたYの事務処理につき善管注意義務違反があった場合には亡dのYに対する不当利得返還請求権や損害賠償請求権が発生することもあり得るのであるから、受任者であるYは、Yによる上記各事務処理の経過及び結果について報告義務を負うと解するのが相当である。そうすると、Yは、Yによるこれらの事務処理の経過及び結果について、すなわち、入居金返還金額及びその返還の相手方、入居金返還金額算定の根拠(入居金の金額を含む。)について、報告義務を負うと解するのが相当である。」

○金員返還請求控訴事件・名古屋高等裁判所判決平成26.8.7裁判所ウェブサイト(原判決変更(一部認容))
有料老人ホームの入居契約及び居室を転居する際に締結した転居契約における入居一時金の初期償却条項の有効性と消費者契約法10条

・ 入居不可能な期間を含む入居契約締結日の属する月を入居一時金の償却の始期とすることについて
「入居一時金の性質は、本件施設の居室等の終身利用の対価であるところ、被控訴人が本件施設を開設する予定日が平成14年5月31日であり、本件施設の入居開始可能日も同日であったことから、Aらは、本件入居契約を締結しても、少なくとも同月30日までは、本件施設に入居できなかったことになるのであり、このような期間をも本件初期償却条項にいう利用経過月数に含めることは、双務有償契約の対価性に反し、消費者の権利を制限し、又は消費者の義務を加重するものとして、前段要件を満たすということができる。」
また、消費者契約法10条後段要件の該当性については、「当該条項が信義則に反して消費者の利益を一方的に害するものであるか否かは、消費者契約法の趣旨、目的(同法1条参照)に照らし、当該条項の性質、契約が成立するに至った経緯、消費者と事業者との間に存する情報の質及び量並びに交渉力の格差その他諸般の事情を総合考慮して判断されるべきである」ところ、これを本件についてみると、「Bが死亡したときに本件合意に基づいて加算入居金の返還金を計算したことについてAがそれを認め、控訴人も異議を述べていないことを考慮しても、本件入居契約に基づく入居一時金の返還金の計算に適用される本件合意は、民法1条2項の規定する基本原則に反し、消費者の利益を一方的に害するものであり、後段要件を満たすものということができる。」
・ 同一施設内での転居における入居一時金の二重償却条項について
「本件入居契約において、入居一時金は、本件施設の居室及び共用施設の利用並びに各種サービスを終身受け得る地位を取得するための対価であるところ、居室の利用権は、上記契約内容の一部にすぎないこと、終身にわたって利用し、サービスを受けうる地位にあるとしつつ、継続的な介護が必要となって介護居室での介護に移る場合には、契約の一部変更も可能なのであるから、必ず従前の契約を解除して新規契約を締結しなければならない(そして、その場合には、再度初期償却がされる。)というのは、不合理であり、特に入居一時金における初期償却条項の性質を、本件終身利用対価部分を償却するものと解する場合には、そのような初期償却が再度可能とすることは二重に本件終身対価部分を取得することになって著しく不合理といわざるを得ず、消費者の権利を制限し、又は消費者の義務を加重するものとして、前段要件を満たすということができる。そして、再度の初期償却は、同一利用者から、本件終身利用対価部分を二重に取得しようとするものであるから、信義則に反して消費者の利益を一方的に害するものというべきであるから、後段要件も満たすものということができる」。

○介護費返還請求事件・神戸地方裁判所判決平成13.7.25裁判所ウェブサイト(棄却)
公益法人の公社であるYの管理、運営する高齢者用共同住宅に入居費と介護費を払い込んで入居したが、そこでの生活に不安を感じ本件住宅から5か月で退去したXが、介護費不返還約定は公序良俗に違反して無効であるなどとして、Yに対して介護費の返還を求めた事案

「Yは、平均余命などから入居者の平均入居期間を16年間と見込み、入居費及び介護費につき入居時に一括全額納入することを求め、途中の物価上昇あるいは16年間を超えての入所などを理由としての追加納入など新たな負担を求めることは一切しないと定め、〔1〕入居費については、16年未満で退去する者に対しては予め定めた返還率で返金する、〔2〕介護費については、途中退去者に対しては入居期間の長短を問わず一切返金しない、としており、その理由として、16年間は平均余命であるから入居者の中には入居期間の長い人も短い人もいることからくる介護費の互助会的な側面、要介護者以外の入居者に対しても健康管理サービス、救急対応を介護費でまかなっていること認められる。これらの理由はとりわけ不合理なものとはいえず、これに加えて、入居後30日以内に当初の期待に反しているとして退去する場合には入居費・介護費は全額返済される規定も置かれていることからすれば、Xには気の毒ではあるが、本件約定が権利濫用に該当するあるいは公序良俗に違反するとまではいえない」。

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