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財産管理

(1)遺産分割

1相続分

嫡出でない子の法定相続分

○遺産分割審判に対する抗告棄却決定に対する特別抗告事件・最高裁判所大法廷判決平成25.9.4判例時報2197号10頁(破棄差戻)

「昭和22年民法改正時から現在に至るまでの間の社会の動向,我が国における家族形態の多様化やこれに伴う国民の意識の変化,諸外国の立法のすう勢及び我が国が批准した条約の内容とこれに基づき設置された委員会からの指摘,嫡出子と嫡出でない子の区別に関わる法制等の変化,更にはこれまでの当審判例における度重なる問題の指摘等を総合的に考察すれば,家族という共同体の中における個人の尊重がより明確に認識されてきたことは明らかであるといえる。そして,法律婚という制度自体は我が国に定着しているとしても,上記のような認識の変化に伴い,上記制度の下で父母が婚姻関係になかったという,子にとっては自ら選択ないし修正する余地のない事柄を理由としてその子に不利益を及ぼすことは許されず,子を個人として尊重し,その権利を保障すべきであるという考えが確立されてきているものということができる。
以上を総合すれば,遅くともAの相続が開始した平成13年7月当時においては,立法府の裁量権を考慮しても,嫡出子と嫡出でない子の法定相続分を区別する合理的な根拠は失われていたというべきである。したがって,本件規定は,遅くとも平成13年7月当時において,憲法14条1項に違反していたものというべきである。」
旧民法900条4号但書前段は「嫡出でない子の相続分は、嫡出である子の相続分の2分の1」であったが、本決定を受けて平成25年12月5日に旧規定を削除する法律が成立した。

2相続財産

1. 預貯金は遺産分割の対象となるか

○遺産分割審判に対する抗告棄却決定に対する許可抗告事件・最高裁判所大法廷判決平成28.12.19裁判所時報1666号17頁(破棄差戻)

「預貯金は、預金者においても、確実かつ簡易に換価することができるという点で現金との差をそれほど意識させない財産であると受け止められているといえる。・・・普通預金債権及び通常貯金債権は、いずれも、1個の債権として同一性を保持しながら、常にその残高が変動し得るものである。そして、この理は、預金者が死亡した場合においても異ならないというべきである。すなわち、預金者が死亡することにより、普通預金債権及び通常貯金債権は共同相続人全員に帰属するに至るところ、その帰属の態様について検討すると、上記各債権は、口座において管理されており、預貯金契約上の地位を準共有する共同相続人が全員で預貯金契約を解約しない限り、同一性を保持しながら常にその残高が変動し得るものとして存在し、各共同相続人に確定額の債権として分割されることはないと解される。そして、相続開始時における各共同相続人の法定相続分相当額を算定することはできるが、預貯金契約が終了していない以上、その額は観念的なものにすぎないというべきである。・・・前記(1)に示された預貯金一般の性格等を踏まえつつ、以上のような各種預貯金債権の内容及び性質をみると、共同相続された普通預金債権、通常貯金債権及び定期貯金債権は、いずれも、相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されることはなく、遺産分割の対象となるものと解するのが相当である。
以上説示するところに従い、最高裁平成15年(受)第670号同16年4月20日第三小法廷判決・裁判集民事214号13ページその他上記見解と異なる当裁判所の判例は、いずれも変更すべきである。」

<参考 大橋正春裁判官の意見>
「・・・しかし、多数意見の立場は、問題の設定を誤ったものであり、問題の根本的解決に結び付くものでないだけでなく新たな問題を生じさせるものといわなければならない。預貯金債権を準共有債権と解したとしても、他の種類の債権について本件と同様に不公平な結果が生ずる可能性は依然として残されている。例えば、本件と、被相続人が判決で確定した国に対する国家賠償法上の損害賠償請求権を有していた事案とで結論が異なるのが相当なのかという疑問が生ずる。問題は、相続開始と当時に当然に相続分に応じて分割される可分債権を遺産分割において一切考慮しないという現在の実務(以下「分割対象除外説」という。)にあるといえる。・・・最後に普通預金債権及び通常貯金債権を準共有債権とすると、問題の根本的解決にならないばかりか新たな不公平を生み出すほか、被相続人の生前に扶養を受けていた相続人が預貯金を払い戻すことができず生活に困窮する、被相続人の入院費用や相続税の支払いに窮するといった事態が生ずるおそれがあること、判例を変更すべき明らかな事情の変更がないことなどから、普通預金債権及び通常貯金債権を可分債権とする判例を変更してこれを準共有債権とすることには賛成できないことを指摘しておきたい。」

○預貯金は遺産分割の対象となるか。―定期預金及び定期積金・最高裁判所平成29年4月6日判例時報2337号34頁

「共同相続された普通預金債権は、相続開始と同時に相続分に応じて分割されることはないものというべきである(最高裁平成27年(許)第11号同28年12月19日大法廷決定・民集70巻8号登載予定)。
 定期預金については、預入れ一口ごとに一個の預金契約が成立し、預金者は解約をしない限り払戻しをすることができないのであり、契約上その分割払戻しが制限されているものといえる。そして、定期預金の利率が普通預金のそれよりも高いことは公知の事実であるところ、上記の制限は、一定期間内には払戻しをしないという条件と共に定期預金の利率が高いことの前提となっており、単なる特約ではなく定期預金契約の要素というべきである。他方、仮に定期預金債権が相続により分割されると解したとしても、同債権には上記の制限がある以上、共同相続人は共同して払戻しを求めざるを得ず、単独でこれを行使する余地はないのであるから、そのように解する意義は乏しい(前掲最高裁平成28年12月19日大法廷決定参照)。この理は、積金者が解約をしない限り給付金の支払を受けることができない定期積金についても異ならないと解される。
 したがって、共同相続された定期預金債権及び定期積金債権は、いずれも、相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されることはないものというべきである。

2.前記最高裁決定により変更された判例の一例

○所有権移転登記手続等、更正登記手続等請求、同附帯控訴事件・最高裁判所第3小法廷判決平成16.4.20判例時報1859号61頁(一部棄却、一部破棄差戻)

被相続人の遺産である貯金について、遺言により相続したとして解約・払い戻しを受けた相続人に対し、他の相続人が別の新たな遺言により法定相続分を相続していると主張して、相続分に相当する金額の不当利得返還を求めた事件
「相続財産中に可分債権があるときは、その債権は、相続開始と同時に当然に相続分に応じて分割されて各共同相続人の分割単独債権となり、共有関係に立つものではないと解される(最高裁昭和27年(オ)第1119号同29年4月8日第一小法廷判決・民集8巻4号819頁、前掲大法廷判決参照)。したがって、共同相続人の1人が相続財産中の可分債権につき、法律上の権限なく自己の債権となった分以外の債権を行使した場合には、当該権利行使は、当該債権を取得した他の共同相続人の財産に対する侵害となるから、その侵害を受けた共同相続人は、その侵害をした共同相続人に対して不法行為にもとづく損害賠償又は不当利得の返還を求めることができるものというべきである。」

(2)遺言・遺留分

遺言

1.「押印」要件と「花押」

○遺言書真正確認等、求償金等請求事件・最高裁判所第2小法廷判決平成28.6.3最高裁判所民事判例集70巻5号1263頁(一部破棄差戻)

「花押を書くことは、印章による押印とは異なるから、民法968条1項の押印の要件を満たすものであると直ちにいうことはできない。そして、民法968条1項が自筆証書遺言の方式として、遺言の全文、日付及び氏名の自書のほかに、押印をも要するとした趣旨は、遺言の全文等の自書とあいまって遺言者の同一性及び真意を確保するとともに、重要な文書については、作成者が署名した上その名下に押印することによって文書の作成を完成させるという我が国の慣行ないし法意識に照らして文書の完成を担保することにあると解されるところ(最高裁昭和62年(オ)第1137号平成元年2月16日第一小法廷判決・民集43巻2号45頁参照)、我が国において、印章による押印に代えて花押を書くことによって文書を完成させるという慣行ないし法意識が存するものとは認め難い。
以上によれば、花押を書くことは、印章による押印と同視することはできず、民法968条1項の押印の要件を満たさないというべきである。」

2.「押印」要件と「押印を欠く欧文のサイン」

○遺言書真否確認等請求上告事件・最高裁判所第3小法廷判決昭和49.12.24判例時報766号42頁(棄却/確定)

「原審の適法に確定した事実関係のもとにおいては、本件自筆証書による遺言を有効と解した原審の判断は正当であって、その過程に所論の違法はない。」

<参考 原審 大阪高等裁判所判決昭和48.7.12>
「亡サホブ・ケイコは一九〇四年ロシアで生れたスラブ人で、一八才のとき来日し、以後四〇年間日本に在住したが、その使用する言葉は、かたことの日本語を話すほかは、主としてロシア語又は英語であり、交際相手は少数の日本人を除いてヨーロツパ人に限られ、日常の生活もまたヨーロツパの様式に従っていたことが認められるから、同女の生活意識は、一般日本人とは程遠いものであったことが推認される。このような点からすれば、同女が本件遺言書に押印しなかったのは、サインに無上の確実性を認める欧米人の一般常識に従ったものとみるのが至当であるから、押印という我が国一般の慣行に従わなかったことにつき、首肯すべき理由があるといわなければならない。・・・次に、欧文のサインが漢字による署名に比し遥かに偽造変造が困難であることは、周知の事実であるから、本件遺言書の如く欧文のサインがあるものについては、押印を要件としなくとも、遺言書の真正を危くするおそれは殆どないものというべきである。以上の理由により、本件遺言書は前説示に従い有効とするのが相当である。」

3.「押印」要件と「指印」

○遺言無効確認請求事件・最高裁判所第1小法廷判決平成元.2.16判例時報1306号3頁(棄却/確定)

「自筆証書によって遺言をするには、遺言者が遺言の全文、日附及び氏名を自書した上、押印することを要するが(民法九六八条一項)、右にいう押印としては、遺言者が印章に代えて拇指その他の指頭に墨、朱肉等をつけて押捺すること(以下「指印」という。)をもって足りるものと解するのが相当である。けだし、同条項が自筆証書遺言の方式として自書のほか押印を要するとした趣旨は、遺言の全文等の自書とあいまって遺言者の同一性及び真意を確保するとともに、重要な文書については作成者が署名した上その名下に押印することによって文書の作成を完結させるという我が国の慣行ないし法意識に照らして文書の完成を担保することにあると解されるところ、右押印について指印をもって足りると解したとしても、遺言者が遺言の全文、日附、氏名を自書する自筆証書遺言において遺言者の真意の確保に欠けるとはいえないし、いわゆる実印による押印が要件とされていない文書については、通常、文書作成者の指印があれば印章による押印があるのと同等の意義を認めている我が国の慣行ないし法意識に照らすと、文書の完成を担保する機能においても欠けるところがないばかりでなく、必要以上に遺言の方式を厳格に解するときは、かえって遺言者の真意の実現を阻害するおそれがあるものというべきだからである。もっとも、指印については、通常、押印者の死亡後は対照すべき印影がないために、遺言者本人の指印であるか否かが争われても、これを印影の対照によって確認することはできないが、もともと自筆証書遺言に使用すべき印章には何らの制限もないのであるから、印章による押印であっても、印影の対照のみによっては遺言者本人の押印であることを確認しえない場合があるのであり、印影の対照以外の方法によって本人の押印であることを立証しうる場合は少なくないと考えられるから、対照すべき印影のないことは前記解釈の妨げとなるものではない。そうすると、自筆証書遺言の方式として要求される押印は拇印をもって足りるとした原審の判断は正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。」

4.「押印」要件と「封筒の封じ目にされた押印」

○遺言無効確認請求判決に対する上告申立事件・最高裁判所第2小法廷判決平成6.6.24最高裁判所裁判集民事172号733頁(棄却/確定)

「所論の点に関する原審の事実認定は、原判決挙示の証拠関係に照らして首肯するに足り,右認定に係る事実関係の下において,遺言書本文の入れられた封筒の封じ目にされた押印をもって民法968条1項の押印の要件に欠けるところはないとした原審の判断は,正当として是認することができ,原判決に所論の違法はない。」

<参考 原審 東京高等裁判所判決平成5.8.30>
「自筆証書によって遺言をするには、遺言者が、その全文、日附及び氏名を自署し、これに押印することを要するが(民法九六八条一項)、同条項が自筆証書遺言の方式として自署のほか押印を要するとした趣旨は、遺言の全文等の自署とあいまって遺言者の同一性及び真意を確保するとともに、重要な文書については作成者が署名した上その名下に押印することによって文書の作成を完結させるという我が国の慣行ないし法意識に照らして文書の完成を担保するところにあると解されるから、押印を要する右趣旨が損なわれない限り、押印の位置は必ずしも署名の名下であることを要しないものと解するのが相当である。 ・・・本件遺言書は、書簡形式の特殊な形態のものであるが、これが単なる書簡でなく、遺言書の性質を有するものであることは、・・・などからみて明らかである上、遺言書であるのに書簡形式がとられた理由は、本件遺言書の末尾に、『念のため郵便局から郷原宛て出す』とか、『郵便局の消印を証明とする』とか記載されているところから了解が可能なものであるといえる。
一般に書簡の場合、それが通常の手紙であれば封筒の封じ目に押印まではしないのが普通であると考えられ、その在中物が重要文書等であるときには封筒の封じ目に押印することのあることは珍しいことではないと考えられる。この場合の押印の趣旨も、在中の重要文書等について差出人の同一性、真意性を明らかにするほか、文書等の在中物の確定を目的とし、かつ、このことを明示することにあると考えられ、本件遺言書も書簡形式をとったため、本文には自署名下に押印はないが(書簡の本文には押印のないのが一般である。)、それが遺言書という重要文書であったため封筒の封じ目の左右に押印したものであると考えられる。そして、右押印は、本件封筒が・・・郵送されていることをも併せて考えれば、本件遺言書の完結を十分に示しているものということができる。 ・・・右印は亡善夫の実印ではないが(当事者間に争いがない。)、遺言書に実印の押印は要件ではなく、認め印でもよい。以上の判示に照らせば、本件遺言書が自筆証書遺言の性質を有するものであるということができ、かつ、その封筒の封じ目の押印は、これによって、直接的には本件遺言書を封筒中に確定させる意義を有するが、それは同時に本件遺言書が完結したことをも明らかにする意義を有しているものと解せられ、これによれば、右押印は、自筆証書遺言方式として遺言書に要求される押印の前記趣旨を損なうものではないと解するのが相当である。」

5.「日付」要件と「日付の誤記」

○遺言無効確認請求事件・最高裁判所第2小法廷判決昭和52.11.21最高裁判所裁判集民事122号239頁(棄却/確定)

「自筆遺言証書に記載された日付が真実の作成日付と相違しても、その誤記であること及び真実の作成の日が遺言証書の記載その他から容易に判明する場合には、右日付の誤りは遺言を無効ならしめるものではない。」

<参考 原審 東京高等裁判所判決昭和52.3.22>
当審が控訴人らの請求を棄却する理由は、原判決の理由と同一であるから、ここにこれを引用する。

<参考 第一審 横浜地方裁判所川崎支部判決昭和50.12.26>
「本件遺言書に、昭和四七年に初めて知り合った被告内藤を遺言執行者に指定する旨記載されている事実(前記二)及び被告内藤はもと判事であって昭和三〇年六月一八日退官したことは当裁判所に顕著な事実であるところ、本件遺言書には「弁護士内藤文質」と記載されている事実(前同)によると、本件遺言書の作成日附として記載されている「昭和二十八年」は「昭和四十八年」の書き損じであることが明白である。このように作成日附の記載に誤記があってもその誤記であることが明白であって、正しい作成日附を容易に判定できる場合には、遺言書の効力を左右するものではないと解すべきである。よって日附に誤記があるから遺言が無効であるとの原告らの主張は理由がない。」

6.「日付」要件と「吉日」の記載

○遺言無効確認請求事件・最高裁判所第1小法廷判決昭和54.5.31判例時報930号64頁(棄却/確定)

「自筆証書によつて遺言をするには、遺言者は、全文・日附・氏名を自書して押印しなければならないのであるが(民法九六八条一項)、右日附は、暦上の特定の日を表示するものといえるように記載されるべきものであるから、証書の日附として単に「昭和四拾壱年七月吉日」と記載されているにとどまる場合は、暦上の特定の日を表示するものとはいえず、そのような自筆証書遺言は、証書上日附の記載を欠くものとして無効であると解するのが相当である。」

 

 

 

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