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全般

(1)認知症の高齢者と家族の義務

○JR東海事件・最高裁判所第3小法廷判決平成28.3.1判例時報2299号32頁(一部棄却、一部破棄自判)
– 名古屋高等裁判所判決平成26.4.24判例時報2223号25頁(一部変更)
– 名古屋地方裁判所判決平成25.8.9判例時報2202号68頁(一部認容、一部棄却)

認知症を患った高齢者(当時91歳)が列車に衝突して死亡した。鉄道会社(JR東海)は、その配偶者(当時85歳)と長男に対し、この事故により列車に遅れが生じたなどと主張して、損害賠償金の連帯での支払いを求めた。
最高裁は、配偶者と長男はいずれも民法714条が定める責任無能力者の法定の監督義務者またはこれに準ずべき者には当たらないとして、鉄道会社が求めた損害賠償請求を認めなかった。

「精神障害者と同居する配偶者であるからといって,その者が民法714条1項にいう「責任無能力者を監督する法定の義務を負う者」に当たるとすることはできない」。
「法定の監督義務者に該当しない者であっても,責任無能力者との身分関係や日常生活における接触状況に照らし,第三者に対する加害行為の防止に向けてその者が当該責任無能力者の監督を現に行いその態様が単なる事実上の監督を超えているなどその監督義務を引き受けたとみるべき特段の事情が認められる場合には,衡平の見地から法定の監督義務を負う者と同視してその者に対し民法714条に基づく損害賠償責任を問うことができるとするのが相当であり,このような者については,法定の監督義務者に準ずべき者として,同条1項が類推適用されると解すべきである。」

本件では、認知症の高齢者を在宅で介護する家族が、第3者に対する加害行為の防止に向けた監督義務を負うのか否かが争われた。本件をめぐっては、施設に入所できず、あるいは入所せず、家族が介護をしているどのような場合に、家族は認知症の高齢者が発生させた損害を賠償せねばならないのかという課題が広く議論されている。家族に監督義務が課されると、家族の負担は大きくなるところ、徘徊を繰り返す認知症の高齢者が事故を起こさないよう常に見守るのは大変である。JR東海事件をめぐる議論は、新たな保険制度の必要性など立法政策に及んでおり、認知症の高齢者のリスクを社会で担う仕組みの構築が模索されつつある。
この事件は、民法と社会保障法双方の観点から検討する必要があり、まさしく高齢者法の課題といえよう。

(2)老齢加算にみる高齢者の特別な保障

生活保護法の生活扶助には基準生活費と加算の制度があり、「老齢加算」が70歳以上の者並びに68歳及び69歳の病弱者を対象に支給されていた。厚生労働大臣は「生活保護法による保護の基準(保護基準)」を改定し、平成16・17年に老齢加算を段階的に減額し、平成18年3月に廃止した。
老齢加算を受けていた者らが、老齢加算の減額・廃止に基づき所轄の福祉事務所長らから生活扶助の支給額を減額する旨の保護変更決定を受けたため、各地で訴えを提起した。保護基準の改定は憲法25条1項、生活保護法3条、8条、9条、56条等に反する違憲、違法なものであるなどとして、各自治体を相手に保護変更決定の取消しが求められた。

○生活保護老齢加算廃止訴訟(京都)・最高裁判所第1小法廷判決平成26.10.6賃金と社会保障1622号40頁(棄却)
– 大阪高等裁判所判決平成24.3.14LEX/DB文献番号25480929(棄却)
– 京都地方裁判所判決平成21.12.14賃金と社会保障1622号45頁(棄却)

○生活保護老齢加算廃止訴訟(北九州)差戻上告審・ 最高裁判所第1小法廷判決平成26.10.614LEX/DB文献番号25504782、D1-Law判例ID:28224267(棄却)
– 差戻審・福岡高等裁判所判決平成25.12.16裁判所HP(棄却)
– 最高裁判所第2小法廷判決平成24.4.2判例時報2151号3頁(一部破棄差戻、一部終了)
– 福岡高等裁判所判決平成22.6.14判例時報2085号76頁(取消、自判)
– 福岡地方裁判所判決平成21.6.3最高裁判所民事判例集66巻6号2495頁(棄却)

○生活保護老齢加算廃止訴訟(東京)・最高裁判所第3小法廷判決平成24.2.28判例時報2145号3頁(棄却)
– 東京高等裁判所判決平成22.5.27判例時報2085号43頁(一部棄却、一部取消)
– 東京地方裁判所判決平成20.6.26判例時報2014号48頁(棄却)

最高裁平24.2.28:「老齢加算の廃止を内容とする保護基準の改定は,〔1〕当該改定の時点において70歳以上の高齢者には老齢加算に見合う特別な需要が認められず,高齢者に係る当該改定後の生活扶助基準の内容が高齢者の健康で文化的な生活水準を維持するに足りるものであるとした厚生労働大臣の判断に,最低限度の生活の具体化に係る判断の過程及び手続における過誤,欠落の有無等の観点からみて裁量権の範囲の逸脱又はその濫用があると認められる場合,あるいは,〔2〕老齢加算の廃止に際し激変緩和等の措置を採るか否かについての方針及びこれを採る場合において現に選択した措置が相当であるとした同大臣の判断に,被保護者の期待的利益や生活への影響等の観点からみて裁量権の範囲の逸脱又はその濫用があると認められる場合に,生活保護法3条,8条2項の規定に違反し,違法となる」。
「70歳以上の高齢者に老齢加算に見合う特別な需要が認められず,……厚生労働大臣の……判断の過程及び手続に過誤,欠落があると解すべき事情はうかがわれない。」「本件改定に基づく生活扶助額の減額が被保護者世帯の期待的利益の喪失を通じてその生活に看過し難い影響を及ぼしたものとまで評価することはできない」。

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