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医療・介護

1. 医療

(一般的な医療事故・過誤事例は除く)

(1)後期高齢者医療制度

○無効確認等請求事件・東京地方裁判所判決平成27.2.16LEX/DB 25532324(一部却下、一部棄却)
後期高齢者医療制度の一部負担金軽減の適用に関する申請却下処分の無効確認

「株式等に係る譲渡に関し、高齢者医療法施行令7条3項各号に規定する「収入の額」は、同条1項に規定する「所得の額」とは異なり、高齢者医療法施行規則31条及び本件告示のいう「総収入金額」、すなわち、租税特別措置法37条の10第6項の規定に基づき、読み替えられた所得税法33条3項の「当該所得の基因となった資産の取得費及びその資産の譲渡に要した費用の額並びにその年中に支払うべきその資産を取得するために要した負債の利子」等を控除する前の、同項の規定する「譲渡所得の金額」の計算上用いられる「総収入金額」をもって算定されるべきものであるというほかはない。」
Xの平成25年分の株式等に係る譲渡に関し、租税特別措置法37条の10第6項の規定に基づき、読み替えられた所得税法33条3項に規定する「総収入金額」に他の収入も加えた本件処分に係るXの高齢者医療法施行令7条3項1号に規定する「収入の額」は、「平成26年8月1日の時点でXが属する世帯における被保険者はXのみであることからすると、同号の基準額である383万円を超えるものであるから,Xには同号は適用されない。」

○療養費請求事件・東京地方裁判所判決平成27.3.20LEX/DB 25524745(棄却)
「医療マッサージを活用した訪問リハビリサービス」等を目的とする株式会社(X)が雇用するあん摩マッサージ指圧師による施術の療養費に関するXの名による後期高齢者医療広域連合への支払請求の可否

Xの主張する「受領についての委任」の趣旨は、「本件療養費の受領についての権限を与えられたものにすぎず、かかる意味において、Xが本件被保険者らから本件療養費の受領を委任されたものであるとしても、そのことから直ちに、本件被保険者らのYに対する本件療養費の支払を請求する権利について、これをXが自己の名で行使することができると解すべき根拠は見いだし難い。Xは、あん摩、マッサージ又は指圧の施術に係る療養費の代理受領は、通常の代理とは異なり、いわば債権譲渡のような仕組みになっている旨を主張するが、後期高齢者医療給付を受ける権利は、譲り渡し、担保に供し、又は差し押さえることができない旨を定める高確法62条の規定に照らし、採用することができない。」

(2)高齢者の医療に関連する事故

○損害賠償請求控訴事件・広島高等裁判所判決平成27.5.27判例時報2271号48頁(原判決変更)
特別養護老人ホームに入居していた者の死亡に関するホームの配置医およびホームを運営する社会福祉法人の過失の存否

ホームの配置医Y1の過失については認容し、その上で、ホームを運営する社会福祉法人Y2の過失について次のように判示している。
「特別養護老人ホームの設備及び運営に関する基準(平成11年3月31日厚生省令46号)21条1項は、特別養護老人ホームの医師又は看護職員は、常に入所者の健康の状況に注意し、必要に応じて健康保持のための適切な措置を採らなければならないと定めているが、特別養護老人ホーム自体は医療機関と異なることからすると、特別養護老人ホームが入所者に対して適切な医療を提供する義務を負うとまでは認められない」から、「Y2が、Y1の前期注意義務違反により、入所契約上の債務不履行責任を負うとは認められない。」
「社会福祉法人は社会福祉事業(医療行為は含まれない。社会福祉法2条1項ないし3項。)を行うことを目的とする法人であり、理事がその職務を行うについて他人に加えた損害を賠償する責任を負う。Y1には、前記(1)の過失が認められるが、同過失は配置医としての過失であって社会福祉事業の遂行上の過失とは認められない。そして、社会福祉法人は医療行為を行うものでないから、配置医としての上記過失をY2の理事の職務上の過失と認めることもできない。また、社会福祉事業を目的とする社会福祉法人が、配置医の医療行為に対して指揮監督をすることはできないから、Y1がY2の使用者であるとは認められない。」

○損害賠償請求事件・山形地方裁判所判決平成26.2.25判例時報2244号82頁(棄却)
摂食不良により入院した高齢者(95歳)について、患者の栄養状態が改善されない状態で退院し、その後誤嚥性肺炎により死亡した場合の医療施設に対する損害賠償請求

「B医師としては、診療を続けた結果、認知症によって摂食障害の改善のめどが立たないものと判断し、本件診療契約の目的を達成できない見通しとなったため、Xら家族にその病状等を説明して、今後の対応についてその意向に任せたところ、Xら家族が退院を申し出たものであるから、亡花子の栄養状態が改善されていない状況にあったとしても、本件診療契約に基づく診療債務を履行して、これを今後継続しても診療の効果が期待できないと判断された以上、掛かり付け医によるフォローと訪問看護によって、退院後の亡Aの自宅介護をバックアップする態勢が執られることを確認した上で、申出に応じて退院を許可し、本件診療契約を終了することに基本的に問題はない」ことから、「B医師には亡Aの退院に関する過失は認められず、この点に関するXの主張は採用しない。」

 

2. 介護

(1)介護保険

 1.介護保険における指定

○介護保険事業不許可処分取消請求事件・東京地方裁判所判決平成24.10.19賃金と社会保障1605号52頁(事業者の請求棄却)

本件は、介護保険法にいう指定事業者となるため、指定を申請した事業者の事業計画について、最賃を下回る金額で人件費が計上されていることや人員配置によると夜間対応型訪問介護サービスを安定的に提供しがたいことなどが問題とされ、指定されなかった。本判決は、介護保険法が事業者の指定欠格事項として定める「基準に従って適正な事業の運営をすること」に、継続的・安定的にサービスを提供できる能力が含まれると解したうえで、本件事業者にそれが備わっていないとした世田谷区の判断を是認した。

○位確認請求控訴事件・東京高等裁判所判決平成24.11.22判例地方自治375号58頁(事業者の請求棄却)

本件は、夜間対応型訪問介護サービスの事業開始について争われた事案である。本件では、事業計画の妥当性や市職員の発言、市(地域密着型サービス運営委員会)による現地確認について争いがあり、口頭での指定処分の有無についても争われた。原判決(水戸地裁判決平成24年5月18日判自375号61頁)は、介護保険法にもとづく一連の市の対応に問題はなく、口頭による指定処分があったとは認められないとして、本件事業者が求めた指定事業者たる地位確認、指定拒否処分の取消し、指定処分の義務づけ、国賠請求のいずれも認めなかった。本判決も指定処分の義務づけについて(棄却した原判決を変更して)却下したほかは同様に判示して、本件事業者の訴えを認めなかった。

 2.介護保険22条3項にいう介護報酬返還請求

○損害賠償(住民訴訟)請求事件・最高裁判所第1小法廷判決平成23.7.14判例時報2129号31頁(破棄自判。堺市の請求認められず)

介護保険では、介護報酬の支払いを受けた指定事業者に対して介護報酬の返還請求を行うことがある。本件では、指定事業者が管理者として届出をした者が、事業所から約10キロ離れた幼稚園の事務長を務めていたことが問題とされ、住民訴訟として訴訟が提起されたところにその特色がある。第1審(大阪地裁判決平成20年1月20日判自311号69頁)は、本件における管理者の届出が法22条3項にいう「偽りその他不正の行為」にあたるとして、指定当初からの介護報酬全額の返還を認めた。原審(大阪高裁判決平成21年7月23日掲載誌なし)もほぼ同様に判断したうえで、報酬に加えて加算金を請求するかどうか、保険者である市町村長の裁量に属する旨判示した。
本判決は、事業者が介護報酬の返還義務を負うためには「事業者が介護報酬の支払を受けたことに法律上の原因がないといえる場合であることを要するというべきである。」と判示し、本件事業者が指定取消しを受けておらず、指定を無効とするほどの事情もないとして、介護報酬の返還請求が認められなかった。なお、宮川光治裁判官の補足意見がある。

3. 介護保険における減額査定の法的性質

○居宅介護サービス費請求控訴事件・高松高等裁判所判決平成16.6.24判例タイムズ1222号300頁(指定事業者の請求棄却)

介護保険において介護サービスを提供した場合、指定事業者は保険者に対して介護報酬を請求する。本件では、介護報酬の請求を行った指定事業者が、保険者から介護報酬の審査・支払いの委任を受けた審査機関によって、請求した金額を減額されて支払いを受けたため(いわゆる減額査定)、減額された分を請求したものである。本件に先立って、指定事業者は審査請求を行ったところ、減額査定が行政処分に当たらないとして不適法却下された。指定事業者が民事訴訟で提起したものの、原審(松山地裁平成15年11月4日掲載誌なし)では請求は棄却され、本件でも同様に請求は認めらなかった。本件は請求が認められなかったものの、減点査定の法的性質を明らかにした裁判例である。

 4.介護保険保険料の徴収規定と憲法25条・14条

○旭川市介護保険条例違憲訴訟・最高裁判所第3小法廷判決平成18.3.28判例時報1930号80頁(被保険者の請求棄却)

旭川市介護保険条例が恒常的な低所得者について一律に保険料を賦課しないものとする規定ないし免除する規定を設けていないことについて、住民が訴えた。本判決は、介護保険料を徴収するための条例にこうした規定がないとしても、それが著しく合理性を欠くとはいえず、経済的弱者に対する合理的理由を欠く差別にもあたらないとして、憲法25条および14条に違反しないとして請求を認めなかった。

5. 介護保険保険料徴収と憲法25条

○大在日コリアン年金差別訴訟・大阪地方裁判所判決平成17.5.25賃金と社会保障1401号64頁(被保険者の請求棄却)

年40万円あまりの年金を受給する被保険者が介護保険の保険料区分2段階(5段階の舌から2番目)に位置づけられ、年額3万円弱の保険料を徴収されることについて、憲法14条1項および25条に違反するとして訴えた。本判決は介護保険料の徴収について立法機関の裁量を逸脱もしくは濫用していないとして請求を認めなかった。また、本件では、年金から介護保険料を天引きする特別徴収についても憲法25条違反すると主張されたが、認められなかった。

(2)介護事故

 1.介護事故と施設の損害賠償責任

○損害賠償請求事件・東京地方裁判所判決平成24.3.28判例時報2153号40頁(高齢者の賠償請求一部認容)

本件は、介護老人保健施設に入居していた高齢者が転倒し、左大腿骨転子部骨折を負ったことについて不法行為ないし債務不履行にもとづく賠償責任を求めた事案である。本判決は、本件高齢者が入所後に多数回転倒しており転倒の危険性が高いにもかかわらず、見守りや、転倒する危険がある場合に回避する措置を講じていなかったことを理由に、債務不履行にもとづく賠償責任を認めた。一方で、本件高齢者に行っていた身体拘束について、「転倒の危険を避けるために一時的に行ったもの」であり、「他に適切な代替方法があったとは認め難い」として、入所契約に違反せず不法行為でもないとして認めなかった。

○損害賠償請求事件・名古屋地方裁判所判決平成17.6.24賃金と社会保障1428号59頁(高齢者遺族の賠償請求棄却)

ケアハウスに入居していた高齢者が体調不良になり、病院搬送後に急性硬膜下出血の手術を受けたが後遺症を負い、その後肺炎によって死亡したことについて遺族が賠償を求めた事案である。本件では、ケアハウス職員が体調不良の本件高齢者に対して採った対応の評価が問題となった。本判決は「自立型ケアハウスを運営する者は、入居者の体調不良に際して、救急車を必要とする場合には救急車を要請し、そのような場合でなければ、入居者の家族に連絡して、入居者本人またはその家族による対応に委ねれば足り、自ら入居者を病院に搬送する義務までは負わない」として、請求を認めなかった。

○損害賠償請求事件・横浜地方裁判所判決平成17.3.22判例時報1895号91頁(高齢者の賠償請求一部認容)

介護施設に入所していた高齢者が施設内のトイレで転倒して大腿骨を骨折したことについて不法行為ないし債務不履行にもとづく賠償を求めた事案である。本件では、補講不安があるために付き添っていた職員に対して、高齢者がトイレへの同行を拒否した事実の評価が問題となった。本判決は、85歳の本件高齢者が転倒する危険があることを十分予想できたことから、職員が同行を拒否されたとしても説得するなどして同行する義務があるとして賠償責任を認める一方、本件高齢者が拒否したことために3割の過失相殺を認めた。

○損害賠償等請求事件・福島地方裁判所白河支部判決平成15.6.3賃金と社会保障1351・1352号117頁(高齢者の賠償請求一部認容)

介護老人保健施設に入所していた高齢者が施設内のトイレで転倒して右足骨折を負ったことについて、不法行為ないし債務不履行にもとづく賠償を求めた事案である。本判決は、職員が行うべきであったポータブルトイレの清掃がなされていなかったために高齢者がトイレで清掃しようとしたことを認定し、債務不履行責任を認めた。さらに、入居者が利用するトイレに段差があったことを工作物責任(民法717条)に違反するとして、賠償責任を認めた。

 2.身体拘束の違法性

○一宮身体拘束事件・最高裁判所第3小法廷判決平成22.1.26判例時報2070号54頁(高齢者遺族の賠償請求棄却)

本件は、病院で看護師らが高齢者を拘束したことについて問題となった事案である。いわゆる身体拘束は介護施設などでも問題となり得るため、取り上げたい。
本件では、ひも付き手袋であるミトンを本件高齢者につけさせ、両上肢をベッドに拘束したことが違法かどうか、争われた。本判決は「その患者の受傷を防止するなどのために必要やむを得ないと認められる事情がある場合」にのみ、患者に対する抑制行為が許容されるとしたうえで、患者の状態、年齢、拘束に至るまでの看護師らの対応、拘束時間を考慮すれば、本件での拘束はやむを得なかったものとして、賠償責任を認めなかった。

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